クリニカルイナーシャ(Clinical Inertia)という言葉をご存じでしょうか。日本語で「臨床的惰性」などとも訳され、最近、よく耳にするようになりました。患者さんが治療目標に達していないのに、適切な治療が行われていない状態を意味します。高血圧症、糖尿病の領域に限らず、医療全体が抱える課題の一つです。

わが国での高血圧の推定数は4,300万人とされ、治療を受けているのは約半数であり、降圧目標に達しているのはその約半数であるといわれています。患者側の服薬アドヒアランス(服薬順守)の不良と医療者側のクリニカルイナーシャによるものです。

高血圧の薬物療法のアルゴリズム(問題解決のための段階的手順)は最初は単剤で、血圧降下が不良の場合、別の薬を2剤、3剤、4剤と追加するのがガイドラインでした。単剤療法での治療開始は、多くの患者さんを単剤療法に留まらせてしまう。それで、イタリアの研究グループにより、治療初期から2剤配合錠剤を使用する試験が行われました。その結果、良い成績が得られ、現在、欧米のガイドラインになっています。日本では保険診療上認められていませんが、早晩そうなるものと思われます。