多くの人が患う認知症の中には、別な病気で脳の働きが阻害されている例が紛れていることがあります。 その場合にはその病気が治るものであれば、元に戻る可能性があります。 そのような別の病気で認知機能の低下をきたしているものを認知症と区別して、治療可能な認知症(Treatable Dementia)と呼んでいます。
 治療可能な、原病の治療が必要な病気のひとつに「慢性硬膜下血腫」があります。 頭を打ったあと、ひと月ほどかけて脳の表面と頭蓋骨の間に少しずつ染み出すようにサラサラとした茶褐色の血液混じりの水が溜まる病気です。 頭蓋骨の裏側に硬膜という薄く柔らかいけれどもしっかりとした膜が張り付いていて、その硬膜と脳との間に溜まるので「慢性硬膜下血腫」といいます。 「慢性硬膜下血腫」があれば「急性硬膜下血腫」も時期が異なるだけの同じ病気かと思ったりしますが、「急性硬膜下血腫」は重篤な怪我です。 「急性硬膜下血腫」については今回は触れませんが、同じ硬膜下血腫でも緊急性や重篤度がかなり違いますのでご注意願います。  慢性硬膜下血腫の診断は、頭部画像検査で行います。頭部CT検査や脳MRI検査です。頭の断面を写真にして硬膜下に溜まっている血腫を確認して行います。
 脳を圧迫している血腫が確認されれば、手術をします。 頭蓋骨に1cmほどの穴をドリルで開けて骨の直下の硬膜を切開すると溜まっている血腫が吹き出します。 血腫のあるスペースにドレーンを挿入し皮膚を閉じ、ドレーンは翌日あるいは翌々日に抜去します。 数日から数週間で圧迫変形していた脳が元の形にもどり、溜まっていた血腫のスペースが無くなり治っていきます。 それに伴い脳の働きの状態が元に戻ってくれます。
 かくして認知症のような症状が治った、ということになります。
 認知症は残念ながら、徐々に進行するもので、治る病気ではありませんが、なかには認知症かなとおもっても良くなってくれる病気が隠れているかもしれません。 認知症かなと思ったら脳の画像検査を受けてみるのもいいのではないでしょうか。